Kimisute
Music Story - Brilliant Days
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Episode 1 - Verse
Location: シェアハウス-Fantôme Iris-
洲崎遵
あ、フェリクスさん。おはようございます……
フェリクス
おはよう、ジュン。僕より早起きなんて、昨夜は眠れなかったのかい?
洲崎遵
いえ、あの……大丈夫です。午前中はフェリクスさんと約束がありましたし……
フェリクス
すまないね。フランス語教室の仕事に出かける前にイメージだけ伝えていた曲を仕上げたかったんだ。では、さっそく始めようか
洲崎遵
は、はい……
洲崎遵
えっと、俺、コード進行は考えてきました。こんな感じとか、どうでしょう……?
洲崎遵
……それで、ここから転調を入れたらすごくドラマチックになりそうかなって
フェリクス
うん、とてもいいね!既に曲の完成形が見えてきたよ
洲崎遵
よかったです。この雰囲気なら、BPM速めのゴシックメタル系アレンジですかね
フェリクス
オルガンを使ってみるのもよさそうだね。……ところで、ジュン
洲崎遵
な、なんでしょう。なにか気になるところが……?
フェリクス
いや、そうじゃないよ。ジュンのほうこそ気がかりなことがあるんじゃないかと思ってね
洲崎遵
えっ……
フェリクス
話したくなければかまわないよ。でも、僕でよければ言ってみてほしい
フェリクス
君の悩みを解決できるかはわからないけれど、その気持ちに寄り添うことはできるから
洲崎遵
フェリクスさん……。……あの、実は……
洲崎遵
俺たち、レーベルに入る前……その、いろいろあったじゃないですか
洲崎遵
でもプロになることが決まって、みんなの気持ちが1つになって、俺、本当に嬉しかったんです
洲崎遵
あの後、ほかのバンドの人たちと会ったらみんな「おめでとう」って言ってくれて……
洲崎遵
これからもお互い頑張ろうって言い合って、くすぐったいけど、すごく前向きな気持ちになれました
洲崎遵
ファンの人たちも、俺たちのプロ入りを喜んでくれてましたよね?
洲崎遵
ライブの時も、「頑張って」って声援がすごくたくさん聞こえました。……だけど
洲崎遵
プロになること、喜んでくれる人だけじゃないんだなって
フェリクス
どういうことだい?
洲崎遵
俺、ゆうべ聞いちゃったんです。燈から
洲崎遵
その話を聞いたら、眠れなくなっちゃったんですよ。俺たちが選んだ道は、本当に正しかったのかなって……
Episode 2 - Bridge
Location: 練習スタジオ
御劔虎春
ま、アマチュアバンドがメジャーになるって決まった時のあるあるだよなあ
フェリクス
その資料、僕にも見せてくれるかい?ふむ……
フェリクス
「あーあ、ファントムも変わっちゃうのかな」「結局メジャーなんだね」
フェリクス
「名古屋離れた時こうなる気がしてた」「あの距離感がよかったのにな」……なるほどね
洲崎遵
まだ、始まってもいないのに……
楠大門
それにしても燈、よくこんなに意見を集めたな。摩周さんの指示か?
黒川燈
はい、ネットから拾いました。もちろん、ポジティブな意見もたくさんあるんですが
黒川燈
今回は眷属――ファンが心配していることを資料にまとめておくようにと
フェリクス
これらを要約すると、僕たちがプロになるのを歓迎してくれる人たちばかりではないということだね
黒川燈
ですね。さっきも虎春さんが言ってましたけど、メジャーデビューってどうしてもそういう感じになりがちなところがあるんですよね……
御劔虎春
実際、大きく路線を変えるバンドもいるからな
洲崎遵
俺も、それで聴かなくなっちゃったバンドはあります。有名になる前のほうが、よさがあった気がして
黒川燈
わかる。見た目の雰囲気も変わって音楽もポップになったり、ジャンル外に走ったりな……
楠大門
プロになれば大手の企業と関わる分、宣伝効果は大だ。だが、自分たちのやりたいことだけやれるわけじゃない
フェリクス
うん。けれど、それもまた音楽を仕事にする……ということかもしれないね
御劔虎春
でもよ、俺らが大切にしてきた世界観を捨てて売れ線っぽい曲とかやるわけねーじゃん
楠大門
俺たち5人でやる意味を失ってまでな。だが、ファンが最も恐れているのがそれだろう
御劔虎春
だからこそ、不安になる気持ちもわからなくはねーけどよ
フェリクス
今の僕たちにできるのは、眷属が愛するファントムらしさを失わずに……
フェリクス
僕たちにしかできない、僕たちが信じる音楽を届けみんなを安心させてあげることだね
フェリクス
さあ!話はここまでにして、ジュンと僕が作った曲のアレンジを詰めていこう
黒川燈
これ、まさにファントムらしい曲って感じですよね!コテコテのアレンジにしたくなる感じです
楠大門
いい形に仕上げれば眷属たちも喜ぶ。きっと、不安を取り除いてやることができるはずだ
フェリクス
ああ。それと、先に伝えておきたいことがある。この曲の核となるテーマは……
フェリクス
僕たちの新たな一歩――ファントムの音楽を世に知らしめるための、革命の狼煙だ
フェリクス
ジュンはそうしたテーマをよく理解し、素晴らしい曲を作ってくれた。だから、アレンジを考える作業はぜひ、ジュンを中心にして進めていけたらと思う
フェリクス
どうかな?ジュン
御劔虎春
いいじゃねーか!俺たちの中の熱い気持ちを形にしてさ。誰も文句の言えねえ曲にしてやろーぜ!
洲崎遵
は、はい……!皆さん、よろしくお願いします……!
Episode 3 - Chorus
Location: ドレッドノートミュージック社長室
摩周慎太郎
今日は重要な話があって集まってもらった。又聞きではなく、直接全員に伝えたい話だったからな。……まず、1つ目だ
洲崎遵
〈これって「いい知らせと悪い知らせどっちから聞く?いずれにしろお前は死ぬが」ってやつ!?〉
黒川燈
〈しーっ!〉
摩周慎太郎
先日送ってもらったデモの社内評価が非常に高く、レーベルとしてはこの曲を君たちのデビュー曲とさせてもらいたいと考えている
黒川燈
本当ですか、ありがとうございます!
摩周慎太郎
2つ目は、この曲をとある大手企業が気に入りCMタイアップとして使わせてほしいという申し出だ
フェリクス
ほう、それは願ってもない話だね
洲崎遵
まさかのどっちもいい知らせ……!
摩周慎太郎
……喜ぶのはまだ早い、3つ目の話がある。タイアップの条件は、曲をバラードに変更することだ
御劔虎春
は?おいおい、バラードって!
摩周慎太郎
CMはシックな雰囲気を想定しているため、そのイメージに合うものにしてほしいそうだ。一からやり直しではないが、アレンジを変えて欲しいと
楠大門
……微妙な話だな。俺たちは全員、そういうつもりで作っていなかったのだから
黒川燈
そうですよね。僕たちの中でも、曲の解釈は完成していましたし。……ん?遵、どうし――
洲崎遵
あ、あ、あのっ……!
洲崎遵
ど、どうしてもダメなんですか!?この曲が、このアレンジが、俺たちの再出発――決意そのものを表現してるんです
洲崎遵
いろんなことを乗り越えてここまで来て……先が見えなくて怖いこともあるけど5人で力を合わせて頑張っていこうって
洲崎遵
俺たちの……覚悟みたいなものを……曲に、込めて……あの……
摩周慎太郎
……もちろん、何度も交渉はした。断ることも検討したが、これは君たちのデビューを飾るまたとないチャンスでもある
黒川燈
僕たちみたいに一般受けしにくいバンドのデビューとしては、ありえない幸運ですよね……
洲崎遵
(……そっか、これが「プロ」になるってことなんだ)
洲崎遵
(フェリクスさん、燈、虎春さん、大門さん……みんなの想いを込めて、5人で作り上げた大切な宝物。それを……)
御劔虎春
俺は手放しで賛成できねーな。だって一番大切にしなきゃなんねーのは「俺たちらしさ」って話してたろ
楠大門
ああ、ファンにとって一番嬉しい形で届けるべきだ。……とはいえ、仕事としての義務があるのもわかる
フェリクス
こうした問題は、これからもついてまわりそうだね。僕たちはなにを選択していくべきか、今こそしっかりと考える時かもしれない
摩周慎太郎
ともかく、ここはクライアントの条件通りアレンジの作り直しをするように
摩周慎太郎
これは命令だ。君たちの活動は、趣味ではなくビジネスになったのだから
洲崎遵
(…………)
ZACK
…………
LIGHT
〈遵、ボーッとしてるけど平気か?本番中だぞ!〉
HARU
〈最後までバラードにすんの反対してたもんな、遵。せっかく作った曲、変えさせられたのはショックだろ〉
D
〈今日は例の企業のお偉いさんも来ているようだな。本番前も緊張のせいか無言だったが、大丈夫だろうか〉
FELIX
……眷属たちよ。今日の夜会に足を運んでくれて感謝する。皆も知っての通り、我々は新たな旅路を歩み始めた
FELIX
ありがとう。ではここで、我らの門出を飾る新曲を披露しよう。近い未来、多くの民に届くことになる歌を――
LIGHT
〈おい遵、遵ってば!演奏始まるぞ、おい!〉
Episode 4 - Ending
Location: ライブ会場
FELIX
ではここで、我らの門出を飾る新曲を披露しよう。近い未来、多くの民に届くことになる歌を――
ZACK
おい、お前らー!!!!!!!
全員
!?!?!?!?
ZACK
招待席のおっさんども、スマホなんか見てんじゃねェ!どいつもこいつも目ん玉かっ開いてよく見ろ!俺様たちの音を聴けっ!!
HARU
(あちゃー、プッツリいったなー)
LIGHT
(嘘だろ……終わった……)
ZACK
近ごろ眷属どもはずいぶん気をもんでたらしいなァ!?俺様たちが変わっちまうんじゃねーかってよ!!
ZACK
んなわけねーだろ、俺様は死ぬまで吸血鬼だ!!ここにいるこいつらだって、ずっと変わらねェ!!
ZACK
お前らが求めるのは、そんな俺様たちが誰にも邪魔されずに生み出した音楽だろ!?
ZACK
だったら気が済むまで聴かせてやんよ、耳の穴かっぽじってよーく聴きやがれっ!!!!!
FELIX
フフ……うちの狂犬は実に活きがいいね。よし、行け!ZACK!
ZACK
オラオラオラオラオラオラヒャハハハッ!!盛り上がってくぞ、○○な夜にしてやんよー!!
LIGHT
(ああもう、フェリさんまで乗っかって!結局最初のアレンジでやるのか、でも……)
D
(……フッ。やはり、しっくりくるな。この曲に込めた想いは、こう表現するべきだ)
HARU
(俺たちの革命の歌、か……。はは、眷属たちも大興奮してやがるぜ)
FELIX
(眷属の……仲間たちの笑顔が輝いている。この景色を、僕はなによりも愛しているよ――永遠に)
ZACK
も……申しわけございませんでしたー!!!!今すぐ舌噛んでお詫びします焼き土下座でもなんでもしますので許してください!!うう……
LIGHT
いいから頭上げろって。やっちゃったもんは仕方ないだろ、もう
摩周慎太郎
失礼、入るぞ。みんな、ご苦労だったな
ZACK
ヒイーッ!!
D
摩周さん、お疲れさまです。……む、タイアップ企業の方もご一緒ですか
HARU
あ、遵が気絶した
プロデューサー
いやー君たち、実に素晴らしいライブだったよ!それに、例の新曲も!
LIGHT
え……?
プロデューサー
実際に演奏を生で聴いてみたら、明らかに先ほどのアレンジが優れていることがわかってね。CMのほうは、曲に合わせて内容を変更しよう!
LIGHT
あ……ありがとうございます……!
プロデューサー
それに、メイクやファッションも実にいいねえ。CMはメイク用品なんだが、モデルを頼みたいくらいだよ!
FELIX
光栄な申し出だね、検討しておこう
D
……一件落着、というところか。おい遵、大丈夫だからそろそろ目を覚ませ
HARU
ったく、さっきはヒヤヒヤしたぜ……。あ、こうなりゃ「CMのモデルが遵に決まった」ってドッキリでも仕掛けっか?
LIGHT
あはは……そしたらまた、ビックリして気絶しそうですけどね
FELIX
フフ、これからも予想のつかないことはあるだろうね。けれど願わくは、それが嬉しい驚きであるように……僕たち皆で、ともにこの道を歩んでいこう――